荒い運転をしていればすぐに廃車になるのは当然

人間って運転をすると本性が出るとはよく聞く話だ。だから初めて夫の――当時はまだ結婚していなかったが――車に乗せてもらったとき、不安を感じたことを覚えている。出会ってすぐはとても優しくて、草食系な感じで、絶対に人を傷つけたりしない人だと思ったのに、車の運転の仕方は全く真逆だったからだ。エンジンを空ぶかししまくって、無理な追い越しをし、気に入らない車を煽り…その豹変ぶりは言葉を失うほどだったけれど、私に話しかけるときはとても優しい、いつもの彼だったので、ついつい安心してしまった。――今思えば、その時に気づくべきだったが。

結婚してから夫は変わってしまった。いや、変わってしまったのではなく、夫はもともとそういう人で、私が目を逸らしていただけなのだ。夫は何かというと私に暴言を吐くようになった。私が何か夫の気に入らない言動をすると、散々嫌味を言った挙句「君のような何もできない人間が毎日のうのうと僕の稼いだ金で飯を食うんだな」と言われるのだ。

初めは「そんな言い方しなくても」と反論していたけれど、私の言った言葉の落ち度を全部拾って100倍にして返してくる夫に、私は何も言えなくなってしまった。

そんなある日、夫は買ったばかりの車で自損事故を起こした。荒い運転のせいで急カーブを曲がり切れず、スピンして壁に激突したのだ。車は廃車になってしまったのに、夫は無傷だった。夫が無事でとても残念がっている自分がいることに気づき、愕然とした。私も人として、何かが壊れているのかもしれない。

荒い運転をしていればすぐに廃車になるのは当然だ。きっとまた新しい車を買っても、すぐに廃車にしてしまうんだろう。新しい車が廃車になるのと、私が廃人になるのと、どっちが先なんだろう…。思わず湧き出た疑問に身震いし、私は着ていたカーディガンの前裾をぎゅっと掴んだ。